著者二人は同期入社の電通社員で、共通ポイントサービス「Ponta」のキャラクター「ポンタ」、テレビ東京のキャラクター「ナナナ」を立ち上げた人物です。現場でキャラクターマーケティングに携わり、しかも自ら生みだしたキャラクターが広く認知されていることから、本書では具体的な事例が豊富に紹介されています。
企業キャラクターの歴史をたどると、ミシュランの「ビバンダム」に行き当たります。1898年の登場ですから、すでに130年近い歴史があります。当時のキャラクターはロゴの延長線上にあり、人格を持たない象徴的な存在でした。
それがマスコットとして広がったのが、テレビ広告が普及した1950~1980年代です。不二家の「ペコちゃん」やケロッグの「トニー・ザ・タイガー」が代表例です。
さらに進化した現在では、企業キャラクターはユーザーと企業の「接点そのもの」になっています。キャラクタービジネスはIPとして確立され、ポケモンやキティ、ミッフィーなどは世界的な存在となりました。
こうした背景を踏まえて本書の「はじめに」を読むと、その立ち位置が非常によく理解できます。ごく簡単にまとめると、こうなります。
「日本はキャラクター大国だが、これまで企業はそれを戦略として扱ってこなかった。これからはキャラクターをロジカルに設計・運用する必要がある」
この主張に異議を唱える人は少ないでしょう。日本人は子供から大人までキャラクター好きで、行政、企業、地域のあらゆる領域にキャラクターが存在しています。
行政分野では「ゆるキャラ」ブームが広がり、熊本県の「くまモン」はその代表例です。デザインを原則無料開放することで爆発的に普及し、関連商品の年間売上金額は数千億円にのぼります。
そのほかにも、彦根市の「ひこにゃん」、今治市の「バリィさん」、深谷市の「ふっかちゃん」など、数多くの成功例があります。
企業キャラクターに目を向けると、やはりディズニーの「ミッキーマウス」が筆頭に挙げられるでしょう。マクドナルドの「ドナルド」、不二家の「ペコちゃん」なども広く知られています。
日本のキャラクター市場は数兆円規模といわれ、LINEスタンプなどを見ても、日常生活の隅々まで浸透しています。キャラクターはすでに文化であり、生活インフラといっても過言ではありません。
しかし著者たちはここで重要な問題提起を行います。
「日本の企業はキャラクターを戦略として扱ってこなかった」
実際のところ、企業におけるキャラクターの扱いは次のようなものが多かったのではないでしょうか。
「なんとなく作る」
「かわいいから使う」
「広告の空きスペース埋め」
「現場ノリで運用」
つまり、そこには目的も設計も検証もありませんでした。また、「キャラクターは子供向けのもの」という誤解もあり、企業内部でロジカルに語られる対象ではなかったのです。
しかし、時代は変わりました。
AIの進化によってキャラクターの制作は容易になり、今後はその数が爆発的に増えていきます。一方でデジタル社会の進展により、キャラクターと消費者の接点は増え続けています。
結果として「作っただけ」のキャラクターは簡単に埋没してしまう時代になりました。
そこで必要となるのが、
「課題に基づく設計」
「ターゲットに沿った開発」
「育成・運用まで含めた戦略」
です。
要するに本書の主張はこういうことです。
「キャラクターは“感覚”ではなく“技術”である」
著者たちは明確にこう言い切ります。
「かわいいだけではダメ」
「作るだけでは意味がない」
「成功は戦略と実行で決まる」
企業キャラクターは再現可能なマーケティング技術であり、広告ツールではなく「企業活動の軸」であるべきだという考え方です。
それでは、本書の目次を見ていきましょう。
・はじめに
・第1章 企業キャラクターをソリューションへ
1-1 企業キャラクターとは何か?
1-2 企業キャラクターの目的
1-3 企業キャラクターの3つの基本機能
1-4 基本機能(1)アイキャッチャーとしての機能
1-5 基本機能(2)コミュニケーターとしての機能
1-6 基本機能(3) インナーモチベーターとしての機能
1-7 企業キャラクターの得意と不得意
1-8 比較(1) 即効性
1-9 比較(2)オリジナリティ
1-10 比較(3) コスト
1-11 比較(4) リスクコントロール
1-12 比較(5) 自由度
1-13 課題起点の企業キャラクター開発実例Ponta(ポンタ)
1-14 企業キャラクターのIP ビジネス展開
1-15 IPビジネス展開の3つの効果
1-16 IPビジネスをはじめるために
・第2章 企業キャラクターを開発する
2-1 企業キャラクターの開発プロセス
2-2 課題の設定
2-3 課題起点の企業キャラクター開発実例 ナナナ
2-4 デザイン開発/ネーミング/世界観開発
2-5 デザイン開発
2-6 デザイン開発の要件(1)象徴性
2-7 デザイン開発の要件(2)独自性
2-8 デザイン開発の要件(3)視認性・識別性
2-9 デザイン開発の要件(4)汎用性
2-10 デザイン開発の要件(5)倫理性・文化的配慮
2-11 企業キャラクターのデザイン開発実例 Ponta (ポンタ)
2-12 ネーミング
2-13 世界観開発
2-14 世界観を構成する要素(1)パーソナリティ
2-15 世界観を構成する要素(2) コミュニティ
2-16 世界観を構成する要素(3)ストーリー
2-17 世界観開発と拡張の注意点
2-18 スタイルガイドの開発
・第3章 企業キャラクターを育成し運用する
3-1 なぜ育成と適切な運用が必要なのか?
3-2 企業キャラクターの3大育成・運用ポイント
3-3 キャラクター体験設計
3-4 キャラクター体験設計 3つの目的
3-5 キャラクター体験設計 5つのポイント
3-6 体験設計のポイント(1) コンタクトポイントを洗い出す
3-7 体験設計のポイント(2) オウンドメディアの活用が鍵になる
3-8 体験設計のポイント(3) マスパワーに頼り過ぎない
3-9 体験設計のポイント(4) リアルな場での体験価値の提供
3-10 体験設計のポイント(5) コラボレーションで体験を広める
3-11 キャラクター体験設計の実例
3-12 クオリティコントロール
3-13 管理と自走の仕組みづくり
3-14 キャラクター開発者との協業
3-15 キャラクター開発者による制作・監修ポイント
3-16 インナーコミュニケーション
3-17 企業キャラクターの育成・運用体制の実例 ロイヤリティマーケティング
・第4章 デジタル時代の企業キャラクターコミュニケーション
4-1 オールウェイズ・オンがコミュニケーションの主流へ
4-2 オールウェイズ・オンのコミュニケーション実例 Ponta(ポンタ)のXコミュニケーション
4-3 AIキャラクターが日常に寄り添う未来
4-4 AIキャラクターの実例(1) キャラトーカーAI
4-5 AIキャラクターの実例(2) CHABOT Ponta
4-6 企業キャラクターとファンコミュニティ
4-7 ファンコミュニティの拡張実例 バファローズ★ポンタ
4-8 企業キャラクターはみんなのものへ
4-9 生活者主導型の実例(1) キャラクターアバター
4-10 生活者主導型の実例(2) アイコンメーカー
4-11 生活者主導型の実例(3) キャラクターAR フィルター
4-12 時代の波をとらえ、乗りこなす企業キャラクター
・おわりに
全4章の流れは非常にシンプルです。
第1章=定義
第2章=開発
第3章=運用
第4章=コミュニケーション(拡張)
マーケティングの教科書として、非常にオーソドックスで理解しやすい構成です。
第1章では、企業キャラクターの役割と機能を整理し、IPビジネスへの展開まで視野に入れています。
第2章では実際の開発プロセスを解説し、デザイン、ネーミング、そして「世界観」という重要な概念が登場します。
ここでいう世界観とは、キャラクターの人格、所属するコミュニティ、物語などを含む総体を指します。
以前の「ただかわいいだけ」のキャラクターだったら、世界観など必要ないのですが、消費者に深く愛されることを期待するキャラクターに育てたいのであれば、ここをきちんと詰める必要があります。
たとえば1967年に登場した着せ替え人形の「リカちゃん」には、詳細な設定が用意されています。
・本名:香山リカ
・年齢:11歳(小学校5年生)
・誕生日:5月3日
・家族構成:お母さん、お父さん、双子の妹
・お母さん:ファッションデザイナー
・お父さん:音楽家
・妹:ミキちゃんとマキちゃん
・友達:はるとくん(ボーイフレンド)、さくらちゃん、みいちゃんなど
・家:一戸建てのリカちゃんハウス
・日常生活:敵がいない、事件が起きない
ここまで背景が作り込んであったからこそ、女の子たちはリカちゃんに感情移入して遊ぶことができ、何世代にもわたって長く愛されるキャラクターとなったわけです。
第3章では「育成と運用」がテーマとなります。
体験設計、タッチポイント、オウンドメディア、コラボ、クオリティ管理など実務的な内容が中心です。
企業キャラクターを企業活動の軸として本気で考えていくなら、「ただなんとなく作っただけ」ではダメなことは自明です。第2章のようにきちんと考えて作り込む必要があるわけですが、さらにある程度の時間をかけて「育成」していくことを始めから考えておかなければなりません。
有名タレントや、既存のキャラクターを自社の広告などに起用する場合は、すでに知名度がありますから育成する必要はありません。しかし、ゼロから作るオリジナルキャラクターは、浸透させるためには時間と手間がかかります。その代わり、高額の出演料や利用料、さまざまなリスクを避けることができ、育て方次第で大きく発展させることが可能になります。
第4章は、デジタル時代への拡張編です。
SNS運用、AIキャラクター、AR、アバター、ファンコミュニティなど、これからのキャラクター運用に欠かせない要素が扱われています。
企業キャラクターはもはや大企業だけのものではありません。非公式キャラクターだった「ふなっしー」が躍進したように、小さな出発点から全国区へと成長する例もあります。
これからの時代、キャラクターは「飾り」ではなく「企業の顔」そのものになります。「わが社もキャラクターを作って飛躍したい」と考えている方にとっては、大いに参考になる1冊です。