電子版の方が価格が高いという、めずらしい価格設定の本です。なぜこのような価格政策なのか、それほど紙の本を売りたいのか、版元に聞いてみたくなりました。
あさ出版は1991年創業の中堅ビジネス書系出版社です。「わかりやすくて役に立つ」を軸にした実用志向の企画が多く、実務寄り、自己啓発寄りのポジションです。
読者の課題解決に直球で応えるタイプの本が多く、タイトルで8割売る形の企画設計をしています。
本書も「相手に意図が伝わらない」と悩んでいる人に対して、一流のコンサルタントが用いている技法を論理的に段階を踏んでレクチャーする内容で、やさしい文章と豊富な図版で読者の理解を助ける工夫がなされています。
著者はプロジェクトマネジメントの専門家で桜美林大学大学院、大阪公立大学の非常勤講師を務め、中小企業を中心に価値創造プロジェクトの推進と次世代リーダーの育成を行っている人物です。博報堂出身で「ぴあ」の再建を主導し、現在はKANDO株式会社代表取締役。著書に『メンバーの頭を動かし顧客を創造する会議の教科書』(あさ出版)、『ビジネスを変える!一流の打ち合わせ力』(飛鳥新社)、『頭の悪い伝え方 頭のいい伝え方』(アスコム)などがあります。
ところで、今回本書を取り上げた理由は、別にみなさんに「話す順番」をマスターしていただきたいと思ったからではありません。本書を読み進めるうちに、これは顧客と向き合うビジネスの現場に応用できる本ではないかと思ったからです。
まず、本書は「はじめに」の前に「プロローグ」と題した10ページほどのブロックがあります。そこから読み解いていくことにしましょう。
「プロローグ」は次の3つの段階で構成されています。
(1)なぜあなたの話は伝わらないのか
(2)その原因はどこにあるのか
(3)どうしたら解決できるのか
最初の「なぜあなたの話は伝わらないのか」は、冒頭に掲げた「いくら丁寧に説明しても、分かりやすい写真をつけても、なぜかお客様の反応がない」に通じると思います。
「シンプルに話すことを心がけても、ジェスチャーをつけても、ロジカルに説明しても相手に響かない」ということには原因があると著者は言います。
著者は、その原因が「相手を動かしたいという欲求」にあると指摘します。これをECの場面に置き換えると、「商品は理解されている。内容にも納得してもらっている。でも買ってもらえない」と状況になりますが、その原因は「売ろうとしている。お客様を説得しようとしている。良さを伝えようとしている」ところにあると著者は言うのです。
「商売なのだから、売ろうとして何が悪い」と思われるかもしれませんが、「押し売り感」「情報過多」「お客様の思考停止」が抵抗となって購買につながらないというわけです。
この状況を打開するには、「会話の主役は自分ではなく相手である」という意識を明確にするしかありません。いくら商品説明をていねいにしても、店側が主役である立場は変わらず、売れる導線を得るためには、主役を顧客に置き換えるしかないからです。
著者はこの思考転換を、「文章から地図へ」と表現しています。相手に自分の意図をうまく伝えるには、文章を重ねるのではなく、地図でルートを示す必要があるというわけです。
その具体的な表現が、次に示されています。
「思考のスイッチを入れる」
「会話に引き込む」
「自分で気づかせる」
「行動に向かわせる」
「プロローグ」で著者が言わんとしているのは、「相手を動かそうとしているから伝わらない、売れない」ということです。動かそうとすると相手は思考を止めてしまい、こちらの意図通りには行動しなくなるからです。
そうではなくて、相手の中にある考えを引き出し、自分で気づいて行動するように誘導する必要があるのです。それが本書の基本的な主張です。
本書のタイトルにある「順番」とは、思考の流れのことを指します。相手の思考をどういう順番で動かすか。それによって相手にこちらの意図が十分に伝わる――著者は「話し方」の説明としてこのロジックを使っていますが、これは対顧客のビジネスにも応用できる考え方です。
続く「はじめに」では、「プロローグ」よりもさらに一歩踏み込んで、著者の考えが語られています。
まず著者は、「伝える」という言葉の意味を問い直します。私たちはともすると「伝える=説明する」ととらえがちですが、著者はこれを明確に否定します。なぜなら、伝えるとは相手を動かすことではなく、相手に動いてもらうことだからです。
その違いは、「プロローグ」で述べられた通り、自分が主役か、相手が主役かにあります。そしてその鍵になるのは、「相手の思考の解像度を上げる」という考え方です。
たとえば、視力の悪い人に精密な地図を見せても、道筋をよく理解してもらうことはできません。相手の思考の解像度が低い状態でいくら説明を重ねても、判断してもらうには至らないのです。
そこで必要になるのが、「説明」ではなく「ガイド」です。相手の頭の中にある曖昧な景色を、一歩ずつクリアにしていきます。選択肢を整理し、判断の軸を見せ、最終的に「これがいい」と相手が決められる状態まで導く。「説明」にはそれはできません。
著者はこのプロセスを、次のように整理しています。
・相手の思考を引き出す
・相手を会話の主役にする
・気持ちよく動けるところまで導く
そして、思考の解像度は一人で高めることはできません。人は自分だけで考えていると発想が堂々巡りに陥りやすいものです。だからこそ、外からの問いかけや対話によって、はじめて視界が開けるのです。
その外からの刺激を与える役を担えば、自分の意図を正しく相手に伝えることができ、期待する結果を手にする可能性が高まるというわけです。
「説明する」から「考えさせる」へ。「売り込む」から「選ばせる」へ。この転換ができるかどうかが、これからのコミュニケーションの分かれ目になるかもしれないと著者は言っています。
その転換のために、著者は続く本文の第1部で6つの「捨てるべき思い込み」を列挙しています。
最初は「会話の主役は自分だ」という思い込みが挙げられています。相手に何を伝えるか、どのように説明するか、どう納得させるかは、すべて自分が握っているというのが「思い込み」だというのです。その考え方では相手が考えるのをやめてしまう、ということは「プロローグ」や「はじめに」ですでに紹介されています。
ここで印象的なのが「押しつける話し方」と「引き出す話し方」の対比です。
押しつける話し方では、主役は自分で相手は言われたことしかできない状態になります。一方、引き出す話し方では主役は相手。相手が自分で考え、自分で動くようになります。
この違いは、そのまま成果の違いに直結していきます。たとえてみれば、売れない商品ページと売れる商品ページの違いでしょう。
そして著者はさらに踏み込んで、こう言います。
「人は、自分の知見をもとに相手を動かそうとすると、知らないうちに相手を見下してしまう傾向がある」
すると、その気持ちは言葉の端々に出てしまいます。それが相手に伝わり、相手は気分を害して思考を閉じてしまいます。
それを防ぐには、会話の主役を自分から相手に変え、「どう伝えるか」ではなく、「相手が何を考え、どう判断するか」に焦点を当てることです。
そのために必要なのが「引き出す」という発想です。こちらの意図を押しつけるのではなく、相手の中にある「やりたい」を引き出す。それができると、コミュニケーションは機能し始めます。
まだ本書のごく一部しか紹介できていませんが、ここから先は目次を見れば、その全体像は十分に読み取れるはずです。「話し方」の本のようでいて、ビジネス全般に通じる内容を持った本です。
以下、本書の目次です。
・PROLOGUE 自分でつかむ伝わる話し方の本質
・はじめに
・第1部 なぜあなたの話は「伝わらない」のか?
CHAPTER1 伝わる話し方のために捨てるべき6つの思い込み
1. 話の主役は自分だと思っている
2. 分かりやすく説明すれば伝わると思っている
3. 話せば分かると思っている
4. 正解を伝えるのが会話の目的だと思っている
5. 伝わらないのは相手が考えていないからだと思っている
6. うまくいかないのは自分の説明力が足りないからだと思っている
CHAPTER2 コンサルタントの話はなぜ伝わるのか?
思考の解像度とは何か
思考の解像度を上げていく
頭の中に成功イメージを描く
相手の思考を半歩先へ
頭の中に共通のフレームワークがある
相手の頭の中を整理する
・第2部 相手の思考の解像度を上げる話し方の順番
話し方は順番が9割
思考の解像度を上げるための5つのステップ
STEP1 相手の「やりたいこと」を言語化する
STEP2 相手の「やりたいこと」の全体像を整理する
STEP3 相手の「やりたいこと」を具体化する
STEP4 相手の「やりたいこと」を成果につなげる
STEP5 相手の「やりたいこと」の実行を後押しする
・STEP1 思考のスイッチがOFFになっている人の特徴
自分の頭で考えていない人には話を聞いてもらえない
心を動かすスイッチを見つける
心を動かすスイッチ (1) 感動エピソードを引き出す
心を動かすスイッチ (2) 問題に感じていることを引き出す
心を動かすスイッチ (3) 叶えたい夢を引き出す
・STEP2 相手の「やりたいこと」の全体像を整理する話し方
相手の視点からフレームワークで整理する
フレームワークの引き出しを増やす
・STEP3 相手の「やりたいこと」を具体化する話し方
テクニック (1) 翻訳する
テクニック (2) ひと言で要約する
テクニック (3) 会話で要約する習慣
・STEP4 相手の「やりたいこと」を成果につなげる話し方
テクニック (1) 仮定でゴールまでの道のりを具体化する
テクニック (2) 現状の課題を整理する
テクニック (3) 課題から解決策を導く
・STEP5 相手の「やりたいこと」の実行を後押しする話し方
相手に小さな成功体験を積ませる
相手のサイズに合わせて行動を設計する
・おわりに