まず著者のプロフィールからご紹介しましょう。といっても、ネットショップ界では有名な方なので、先刻ご承知の人も多いことと思います。かくいう私も、ネットショップ雑誌のライター時代にはこの方を何度も取材しており、現在もSNSでフォローしています。
間違いがないように、著者公式サイトに掲載されているプロフィールを引用します。
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著者・竹内謙礼氏は、有限会社いろは代表取締役。大学卒業後、出版社、観光施設の企画広報担当を経て、2004年に経営コンサルタントとして独立。楽天市場のほか、複数のネットビジネスで受賞歴あり。
実店舗の集客や販促戦略、ネットビジネスを中心にしたコンサルティングに精通しており、個人事業主から大企業まで、幅広く販促ノウハウを提供している。
全国各地の商工会議所や企業にて精力的にセミナー活動もおこなう。また、経済誌やWEBニュース等への連載や寄稿のほか、日経MJにおいて、毎週月曜日「竹内謙礼の顧客をキャッチ」を10年以上連載中。取材した企業は650社を超える。著書は『巣ごもり消費マーケティング』『ネットショップ運営攻略大全』(技術評論社)、『逆境を活かす店 消える店』(日経BP)『会計天国』(PHP研究所)ほか60冊以上。
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本書は昨年末の刊行ですが、今年の初めには東京で本書の刊行を記念したセミナーがリアル&オンラインで開催されました。タイトルは本書と同じ「売り方の正解 小さなお店が生き残る50のヒント」です。
かつてのネットショップ黎明期は、全国各地にスモールビジネスの有名店が勃興し、個人や少人数で成功できるビジネスモデルとして脚光を浴びました。しかしそれも平成、令和の時代になると莫大な販促予算をかけられる大企業が席巻するようになり、もうスモールビジネスでは勝てないのかという雰囲気が広がっています。
しかし、著者は「そんなことはない」と断言します。「ちいさなお店や会社でも、創意工夫してやれることがたくさんある」という実例を50個示したのが本書です。前述のセミナーでも、本書にある「アナログとデジタルのいいとこ取りで行こう」というテーマを紹介していました。
本書の表紙には、ほかにこんなことが書かれています。
「小さいお店だからこそできる売り上げアップ、集客手法を教えます」
そして次のようなフレーズが並んでいます。「QRコード」「ダジャレの商品名」「看板広告」「顔出し」「ギフト」「年賀状」「SNS」「コラボ」「推し」「LINE」「生成AI」「アナログ販促」「オンリーワン」
それでは「はじめに」を読んで著者の本書に対する思いを確認してみましょう。
「はじめに」の冒頭で、著者はこう書いています。
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本書は、「人も金も時間もない」小さなお店や小さな会社が、すぐに実践できる集客・販促手法を集めたマーケティング指南書である。
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ここで本書のターゲット読者が明確に示されます。「人も金も時間もない」「小さなお店や小さな会社」がターゲットだというのです。大企業向けのマーケティング指南書ではないと、はっきり謳っているわけです。
つまり、大企業が成功している販促手法を小規模事業者に当てはめるのではなく、小さな会社だからできる戦い方を示そうとしているのが、本書です。
小さなお店・小さな会社の販促活動は、昭和時代はチラシや電話営業が主流でした。それが平成時代になると大型店、チェーン店との競争が激しくなり、令和に入って販促の戦場はネット、SNS、AIになりました。
そしてネット上での販促活動に必要な費用が急激な右肩上がりとなるにつれて、「果たして小さなお店は令和の時代に生き残れるのか」という経営者の不安が増してきました。
その不安に対して、著者は「大丈夫、生き残れます」と断言しています。「そのためには本書を読んでください」という導入になっているわけですが、SNSやリアルで著者を知っている人ならおわかりのように、著者は明るく楽観的なキャラクターです。それがスモールビジネスの経営者を安心させ、「ちょっと聞いてみよう」という気にさせます。
「はじめに」では、AIを脅威ではなく味方として扱っています。たとえば「ChatGPTをオンラインショップのセールストークに使う」というくだりでは、AI万能論ではなく、「少人数でも大企業並みの仕事ができるようになる」という位置づけで現実的に扱っています。
このあとで目次を紹介しますが、本書は「即効性のある販促」「動画・リール」「ChatGPT」「インフレ対策」「経費削減」という順序で章立てが進みます。
少なくとも「はじめに」を読んだ方は本書が「売る技術よりも令和時代に小さな会社がどう生き残るかを考えさせる実践書」であることがわかるでしょう。
ここから先を読み進めるには、まず「大企業の真似をするな、小さいことを武器にしろ」という著者の主張を前提として理解しておくことが必要です。
それでは、本書の目次を紹介します。
・はじめに
・第1章 簡単スピード改善10選
すぐにこれをやりなさい
1 QRコードを目立たせなさい。
2 「売っている人の顔」を出しなさい。
3 友達や知人に売りなさい。
4 今すぐ動画を始めなさい。
5 中途半端なSNSはやめなさい。
6 お客をLINEに登録させなさい。
7 「営業時間の常識」を捨てなさい。
8 コラボ企画をやりなさい。
9 赤字のネットショップは、商品を変えなさい。
10 グーグルマップにお店の情報を載せなさい。
・第2章 新規客・得意客を増やすワザ10選
まずは知名度を上げなさい
11 「看板広告」を本気で作りなさい。
12 年賀状を出し続けなさい。
13 「写真も店舗の顔だ」と思いなさい。
14 月に1回、プレスリリースを配信しなさい。
15 「アナログ販促」で修業をしなさい。
16 安い広告を何度も出しなさい。
17 「経営者の自己満足」のようなホームページはやめなさい。
18 情報は小出しにしなさい。
19 お客と触れ合えるイベントをやりなさい。
20 「地域の面倒くさいこと」をやりなさい。
・第3章 すぐ結果が出るコピー術10選
生成AIにキャッチコピーを作らせなさい
21 キャッチコピーには数字を入れなさい。
22 「単なる要約文」のキャッチコピーはやめなさい。
23 キャッチコピーはたくさん作りなさい。
24 生成AIにキャッチコピーを作らせなさい。
25 思いつかなかったら、「疑問形のコピー」にしなさい。
26 意外性のある商品名で、ヒットを作りなさい。
27 お客が笑顔になる商品名をつけなさい。
28 お得感を出すなら、「業務用」を訴えなさい。
29 「検索されやすい店名」にしなさい。
30 「比較優位性」を示すキャッチコピーを作りなさい。
・第4章 顧客単価を上げる売り方10選
そこにしかないものを売りなさい
31 「悩み事を解決する」商品を売りなさい。
32 対面で商品の価値を伝えなさい。
33 インフルエンサーよりアンバサダーを起用しなさい。
34 「オンリーワンの店」になりなさい。
35 限定品は「ストーリーと一緒に」売りなさい。
36 「セット売り」を始めなさい。
37 お客にとっての「推し」になりなさい。
38 ギフト品を作りなさい。
39 値上げと同時に、お得感のあるサービスを始めなさい。
40 「客離れの起きない値上げ方法」を探しなさい。
・第5章 経費削減と経営改革10選
売れない商品は処分しなさい
41 ネット広告を、今すぐやめなさい。
42 コスト削減策を考えた社員に、報奨金を出しなさい。
43 余剰在庫は、迷わず廃棄しなさい。
44 オフィスを、みんなで作りなさい。
45 「社員を雇用する常識」を捨てなさい。
46 社内のスタッフ以上に、フリーランスに優しく接しなさい。
47 経営者の参謀役は、定期的に替えなさい。
48 求人で職場をキラキラに見せるのはやめなさい。
49 優秀な社員は独立させなさい。
50 「もったいない」を捨てなさい。
・おわりに
それでは本文に入っていきましょう。最初の項目は「QRコードを目立たせなさい」です。ここで勘違いしてはいけないのは、著者は「QRコードを大きく表示せよ」と言っているのではないことです。
しっかり読むとわかりますが、「QRコードを読み込んでリンク先を表示させると、どのような良いことがあるのか」を明示した上でQRコードを目立たせなさいという話なのです。
ここには「QRコード経由の閲覧は全体の約1%」と記されています。「なんだ1%か」と思うか、「優良顧客になる可能性が高い人が1%もいる」と思うかが運命の分かれ目です。
ここで「優良顧客になる可能性の高い1%」と考えられる人なら、この数字の意味が理解できるでしょう。
本書には親しみのある説明イラストが多数掲載されています。諒将という人のイラストですが、これには裏話があります。
著者は当初、掲載するイラストをAIに描かせようと考えていました。しかし、いくらやっても思うようなイラストができません。いろいろとプロンプトを工夫したり、出来上がったイラストにさまざまな修正を加えようと試みますがうまくいきません。そのうちに、「絵の描けない自分がいくらAIに描かせようとしても、指示がうまく伝わらないのは当然だ」ということに気づき、人間のイラストレーターにお任せすることにしたそうです。
この項のイラストはBefore・Afterの説明になっていて、BeforeのチラシはQRコードが小さくて目立たず、リンク先にどんなメリットがあるかが明示されていません。
それに対してAfterのチラシはQRコードがチラシの約5分の1を占めるほど大きくなり、さらに「OPEN記念10%オフクーポン」と飛び先ページのメリットがはっきりと謳われています。
つまり本文をよく読まなくてもイラストを見るだけでここに描かれていることがわかるようになっているわけで、実用書の説明イラストとしての機能が十分に発揮されています。これはAIに描かせたイラストではなかなか実現できないことです。
5番目の「中途半端なSNSはやめなさい」は、「惰性で続けるSNSはやめて、経営資源を有効に配分せよ」という項目です。
著者は小さなお店がSNSで成功する条件として、次の3つを挙げています。
・SNSが好き
・SNSに投稿したいネタがある
・毎日投稿できる
この3つが満たされていない場合は、SNSに手を出すべきではないということです。
多くのマーケティング本なら、「投稿を習慣化しましょう」「投稿カレンダーを作りましょう」と言ってSNSを販促に使うように勧めるはずです。しかし著者ははっきりと「好きでなければ続かない」と断じています。
というのは、現代のSNSはアルゴリズム上、継続できて投稿量が多い人の露出が増えるようになっているからです。当然、露出が増えれば反応も多くなるでしょう。だから、SNSが好きでない人がいくら義務的に投稿しても、途中で止まってしまい、かえって評価を下げることになります。
そして著者は、SNSが向いていないと判断したら、熱量を込めて毎日楽しんでもらえる販促は何かを考えるべきだと言います。自分の得意分野に経営資源を集中せよというアドバイスです。小さいお店や小さな会社こそ、「選択と集中」を明確にしなければなりません。
ただし、最新の生成AIをアシスタントに使うことで、ある程度の苦手はカバーできるようになっていますから、必ずしもSNSが好きでなくてもOKになる日は近いかもしれません。
14番目の項目は「月に1回、プレスリリースを配信しなさい」です。
ここで著者が本当に言いたいことは、「広告ではなく、記事として取り上げてもらえる情報を作りなさい」ということです。
広告はお金を払えば適当に考えた内容でも発信することができます。しかしプレスリリースをメディアに送り、掲載してもらうためには、メディア側が「読者にとって面白い情報だ」と思わなければなりません。
つまり、月に1回プレスリリースを配信するためには、毎月「われわれは何をニュースにできるか」を考えるクセをつける必要があります。その習慣が会社を強くすると著者は言いたいわけです。
そして著者は「記事にしやすいプレスリリース」の要素として、「季節性」「時節性」「地域性」などを挙げています。たとえば「新製品発売」だけでは弱くても、「父の日限定」とか「猛暑対策」がついていれば、編集部は興味を持つかもしれません。
「月に1回」と言われると、「そんなにニュースはないよ」と思うかもしれませんが、ないと思うところを考え抜くところに意味があると著者は言います。毎月「何か話題はないか」と考える会社は、自然と企画体質になっていきます。
さらに、今の時代ならAIがサポートしてくれます。AIに「今月のプレスリリースに載せる切り口を10個考えて」と指示すれば、季節性や地域性を絡めた企画案を考えてくれるでしょう。
本書にはありませんが、もう一歩踏み込んでアドバイスするなら、「プレスリリースは編集者目線で書くことが大事」です。採用されるプレスリリースの多くは、編集者の立場で考えて、どんな内容なら掲載したいと思うかを吟味したものです。
最後の「おわりに」では、これから10年を生き残るために必要な力として、次の3つが挙げられています。
・売る力
・見極める力
・考え抜く力
本書に掲載された50のアドバイスは、どれもこの3つに関連しています。
小さなお店はいろいろな点で大企業に勝てません。しかし、「あの人から買いたい」と思ってもらうことができれば、お客様は多少の不便があっても買ってくれます。それが商売の本質であり、デジタル時代になっても変わらないポイントです。
刊行から半年ほど経ちますが、数年経っても古びない、ビジネスの王道が書かれた一冊です。