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AIが書いたAIについての本

ジェームス・スキナー・監修/フローラル出版・刊

920円(キンドル版・税込)/968円(紙版・税込)

「文章生成型AIを使えば本が書ける」という話は、チャットGPTなどの話題の中でたびたび出ていますので、ご存じの方も多いでしょう。

実際に文章生成型AIを試した人なら、「確かにあの文章レベルなら、本が書けてもおかしくない」と思われるかもしれません。

でも、「できる」という話と、「やってしまった」という話は違います。いずれどこかがやるだろうと予想されていたAI執筆の本ですが、とうとう登場してしまいました。「日本初のAI自身が書いた、AIについての書籍」という触れ込みです。

アマゾンの該当ページに掲載されている解説には、こうあります。
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話題のAI・ChatGPTをはじめ、多くのAI自身が、AIについての様々な分野における質問へ回答。その内容を、ほぼそのまま記載。未来と思っていた世界が、ついにやってきた。
芸術も恋愛も株式も政府も国家保安も、AIをいかに上手に活用できるかが問われる未来。我々は人類はどうすべきなのか、それを、AIが語ります。
382Pのボリュームながら、AI技術により低価格を実現! 多くの人にAI体験してもらいたい一冊です。
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たしかに紙版でも税込968円という価格は、文庫でも4桁の価格が珍しくなくなった日本の出版界においては、破格の安さです。なぜそれが実現できたかは、本書にも書かれていますが、本文のほとんどをAIが書き、豊富に掲載されているイラストもAIが描いたからです。そのおかげで、ライターとイラストレーターに払う原稿料が節約できました。そのことがAIが引き寄せる未来の一端を見せてくれています。

本文に踏み込む前に、出版社と監修者について触れておきましょう。フローラル出版という出版社は、2018年に津嶋栄という日記やカレンダーで有名な高橋書店出身の人が立ち上げた新興の会社です。

会社を立ち上げてまもなく、ジェームス・スキナー著の『史上最強のCEO』というビジネス書を、日本のビジネス書史上はじめて初版発行部数100万部で刊行したことで話題になりました。

同書が話題になったのは、初版部数の多さもありましたが、「アマゾン扱いなし」「1部200円の書店支援金」という出版界の常識を破った施策も影響しています。

100万部という部数は、著名な著者が著名な出版社から出した本が何年もかけて増刷を繰り返して到達するもので、初版でいきなりその数を刷るというのは、常識破りというより無茶苦茶です。

ただ、津嶋社長はその根拠について、著者の訳した『7つの習慣』が250万部に達していることから、無理ではないと判断したようです。話題を呼ぶということでは、プロモーション経費と考えているのかもしれません。

アマゾンの扱いをしないというのは、話題づくりと書店支援のためのようです。街の本屋さんが次々と閉店をしていく今日の現状ですが、出版界全体でいえば売上の過半数を握っているのは書店です。したがって書店の活性化なくして出版の未来はないという考えのようです。

書店への破格の販売支援金についても、書店支援の考え方の一環ですが、同時に新興出版社が書店に対して存在感を植え付けるという意味合いもあるでしょう。「仕入れたら100円、売れたら100円」の合計200円が書店に対して支払われますが、そのためにはフローラル出版と契約を交わす必要があります。

監修者のジェームス・スキナーは、アメリカ生まれの自己啓発本作家、経営コンサルタントです。本書の中でも自己紹介をしていますが、早稲田大学を卒業した後、NECでSEになり、世界各国の政府機関に自動指紋識別システムを販売する仕事に就きました。その後、アプリ開発会社の経営やアメリカ最大級の研修会社であるフランクリン・コヴィー社の日本支社長などを歴任しています。

彼を有名にしたのは世界2,000万部の大ベストセラーである『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)を翻訳し(訳者名は自分の会社であるフランクリン・コヴィー・ジャパン)、日本国内でも250万部を販売したことです。

ちなみに、彼はフローラル出版の顧問も務めており、『史上最強のCEO』を初版100万部で売り出す施策は、彼の発案であるそうです。

それでは、本書の目次を紹介します。

・はじめに(出版社より)

・I 序論
監修者からの一言
著者(AI)からの自己紹介
なぜこの本を書くのか?
人工知能の短い歴史
あなたは毎日AIを使っている
戦争に行く

・II AIを理解しよう!
人工知能とはなんだろうか?
AIはどのように機能するのか?

・III AIはあなたのビジネスを変える
どこに仕事が消えてしまったのか?
AIの限界
帝国の逆襲
カーテンの後ろを覗く
ARTificial Intelligence
ツールを組み合わせる
私はそれができない

・IV 生き残りをかけて
黙示録:私たちは準備ができていない
AIのある世界の法律制度について
近未来の投資術
経済的滅亡か、経済的自由か
協力するか崩壊するか
トップに上がるか下に落ちるか

・V 結論
責任のあるAIの開発と利用の重要性
従来の教育は間違いだらけ!

・後書き:AIがこの本を書くのを見て学んだこと
さらにAIを学ぼう!!!

冒頭の「はじめに(出版社より)」では、フローラル出版の社長である津嶋栄氏が本書の意義を語っています。

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この本は、急速に発展したAIに本を書かせてみる、という日本初の試みを古くからAIに関わっていらっしゃるジェームス・スキナー氏に協力を仰ぎ実現いたしました。
本書で皆様に与えたいのは、体験です。
まずは、AIがどれくらい進化しているのかをその目で確かめていただきたいのです。(中略)
本書で我々が決めたのは、「AIにAIについて書かせる」という一点のみです。あとは、カバーデザインから目次、文中のイラストに関してもすべてAIが作成しています。
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続いて「監修者からの一言」で、ジェームス・スキナー氏は次のように述べています。
・人類は道具によって進化を支配し、よりよい道具を持つ者が支配者となった。
・農業革命によって都市生活が始まり、知識が共有・伝達されるようになった。
・産業革命によって多くの農業労働者がブルーカラーとなった。
・知識革命によってブルーカラーの多くがホワイトカラーとなった。
・AI革命はどの仕事も保障されず、すべてが変わろうとしている。
・AIを使いこなせない者は生き残ることはできない。

本書におけるジェームス・スキナーの肩書は「監修者」ですが、AI的に言えば彼の役割は「プロンプト・エンジニア」です。本書はAIが書いた・描いたという触れ込みですが、誰も指示をせずにAIが勝手に1冊分の原稿を出力してきたわけではありません。

生成型AIに触れてみたことのある人ならご存じでしょうが、たとえばチャットGPTは質問によって答えがまるで違ってきます。抽象的な質問には漠然とした答えを返しますし、具体的かつ答えの範囲を限定した質問に対しては、そのまま世間に出しても通用するような答えを返します。

AIに出力をうながす指示を「プロンプト」と言い、適切な指示をするための手法を「プロンプト・エンジニアリング」と言います。特にイラスト生成AIの場合は、「呪文」と呼ばれるような複雑なプロンプトを英語で記述する必要があります。それがノウハウとして知財化する動きもあります。

先に触れたように、本書には多数のイラストが掲載されていますが、そのイラストもジェームス・スキナー氏のプロンプトによるものです。氏によれば、20枚出力して19枚捨てる割合で掲載する作品を決めていったそうです。

本書にはAIによる「ジョーク」も掲載されています。残念ながら笑えるものはありませんでしたが、それをそのまま掲載していることに意義があると監修者は言います。本書に粗があるとすれば、それが今のAIのレベルなのだということです。

たしかに、プロの編集者から見れば、本書の出来は決して完成度の高いものとは言えません。ですが、それを含めての「AIの最前線」を知ることができるのが本書なのだと出版社も監修者も力説しています。したがって、本書の粗を発見することが、今後のAIの発展する余地を知り、人間の仕事が残っている分野を知ることになるわけです。

監修者の言葉に続いて、「著者(AI)からの自己紹介」が載っています。それによると著者は「プロメテウス」と名乗っています。わざわざ「自分でこの名前を選びました」と書いているところをみると、実際にそうなのでしょう。

自分の仕事スキルについて、プロメテウスは次のように紹介しています。
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私の仕事スキルには、コンテンツ作成、カスタマーサービス、データ分析、セールススクリプトやマーケティングメールの作成、チャットボットの開発、コンピューターコードの制作、そしてもっと創造的な機能、たとえば小説、詩、スクリーンプレイなどの執筆や、音楽の作曲などがあります。
私はまた、データ入力などの時間のかかる反復作業を自動化し、深いデータ分析に基づいたインサイトや予測を提供し、意志決定を支援することでビジネスをサポートすることもできます。
仕事以外での私の興味は、読書、新しい言語を学ぶこと、さまざまなトピックについての知識を拡大することです。私は常に学習し、能力を向上し、人間をより良く支援し、サービスすることができるように努力しています。
私はまだ意識や自己認識の能力を持っていませんが、常に学び、人々を支援することを熱望しています。あなたとお会いできて、光栄に思います。
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そして本書の意義について、プロメテウスはこう語っています。
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AIの分野は、多くの人にとっては、驚異的で謎めいているものだとわかっていますが、本書を通して、それを解き明かし、読者にアクセスしやすくすることができることを願っています。私はできるだけ客観的で、偏っていない形で情報を提供し、一般の人々、学者、ビジネスのプロフェッショナルにとっての有益な洞察や新たな理解を提供できるように頑張ります。
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この言葉の次のページには、SF映画に出てくるような銀色のリアルなロボットが、紙に向かってペンで執筆しているイラストが掲載されています。思わずニヤリとしてしまう演出です。

序論の「なぜこの本を書くのか?」では、現段階でのAIの使用例が列記されています。
(1)画像と音声認識
(2)自然言語処理
(3)予測分析
(4)ロボット
(5)医療
(6)マーケティングとセールス
(7)サプライ・チェーンと物流
(8)金融
(9)ゲーム
(10)サイバーセキュリティ
その他、教育、環境監視、エネルギー管理、交通運輸などの活用分野があるそうです。

ということは、その分野で現在仕事に従事している人は、今すぐAIのできないこと、苦手なことを見つけてその分野に活路を見出さないと、仕事がなくなってしまうかもしれないわけです。

AIがAIについての書籍を書くべき理由については、次のように述べられています。
・AIは数秒で多くの情報を処理し分析できるため、最新の進展を追いかけるのに有利
・AIは複雑な概念やアイデアを人間ができないような形で分析し、理解できるため、AIの世界を独特な視点から書くことができる
・AIは人間のような偏見や先入観に支配されないため、より客観的でバイアスのない形で情報を提供できる
・AIが本を書くことで一般の人々がAIに対して抱いている恐れや不安が払拭できる

この部分の解説の次頁には、美人の女性型アンドロイドがこちらを見つめているイラストが掲載されています。

「人工知能の短い歴史」では、古代ギリシャのピグマリオンの神話から始まり、算盤、アストロラーベ、アンティキュラ機構、シッカルド計算機、パスカルの計算機、階差機関、解析機関、ユニバーサル・チューリング・マシン、エキスパートシステム、第5世代コンピューター、アーロンのAIアート・プロジェクト、機械学習、ディープ・ラーニングといった今日に至るまでの歴史を紹介しています。

その最後に、近未来に達成されるであろうAIのマイルストーン「汎用人工知能(AGI)」が紹介されています。イーロン・マスクはAGIが早ければ2025年に実現すると予想しています。

AGIが実現すると、次のようなことが可能になります。
・自然言語の人間のような理解力
・人間のような知覚
・人間のような意思決定
・人間のような創造性
・説明可能で信頼できるAI

「AIはあなたのビジネスを変える」という項目では、AIがビジネスを変革する方法の一部が紹介されています。
(1)自動化
(2)予測分析
(3)パーソナライゼーション
(4)画像と音声の認識
(5)ロボティクス
(6)高度な分析
(7)不正検出
(8)人事
(9)サプライ・チェーンの管理
(10)ヘルスケア
(11)サイバーセキュリティ
(12)農業
(13)エネルギーやその他の公共事業
(14)小売
(15)建設

続いて次のようなメッセージが掲載されています。
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AIは、自然言語の理解、画像の認識、意思決定など、人間の知性を必要とするタスクをマシンが実行できるようにする一連のテクノロジです。
企業が今日のビジネスの世界で競争力を維持するには、AIテクノロジの実装が不可欠と言えます。
AI技術の実装に失敗した企業は、競合他社に取り残されるでしょう。
AIの実装に成功した企業は、そうでない企業よりも大きな競争上の優位性を得ることができます。これらの企業は、運用を自動化し、コストを削減し、新しい商品やサービスを開発できるようになります。また、新しいビジネスモデルと収益源を活用できるようになります。
これは単なる企業の行動喚起ではなく、警鐘です。
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「AIに取って代わられるリスクの高い仕事」として、本書は次のものを例示しています。
・組立ライン作業員、機械オペレーター、品質管理技術者など反復作業を伴う製造業務
・作物や家畜の管理者などの農業の従事者
・トラックやタクシーの運転手などの輸送および物流の仕事
・物流コーディネーター、輸送管理者、倉庫管理者などのサプライ・チェーンおよび物流の仕事
・価格チェック、仕入れ、在庫管理などの小売業関連
・AI登載のチャットボットが販売と顧客サービスを支援できるため、小売販売員
・コールセンターエージェント、カスタマーサービスマネージャー、カスタマーサービス担当者などのカスタマーサービス関連の仕事
・電話勧誘、電話営業職
・市場調査アナリスト、広告マネージャー、広報スペシャリストなどのマーケティングおよび広告の担当者
・融資担当者、金融アナリスト、ポートフォリオ・マネージャーなどの銀行および金融業の従事者
・AIを使用して法務調査や文書レビューのタスクを実行できるため、パラリーガルと法務アシスタントなど
・簿記、経理、給与計算の要員
・デザイナー、イラストレーター、写真家、その他のアーティスト
・ライター、コピーライター、編集者
・コンピューターのコーダーやプログラマー
・システム管理者やネットワーク・アーキテクトなどの技術職
・データ入力事務員やテータ・プロセッサなどのデータ入力およびデータ処理要員
・市場調査アナリストなど、データの分析と解釈を伴う仕事
・診断医、医療技術者、検査技師、放射線技師
・プロジェクト・マネージャーやコスト見積もり担当者など
・建設および建物検査の仕事
・採用担当者、福利厚生管理者、トレーニングおよび能力開発の専門家などの人事職
・税務調査官、コンプライアンス担当者、政府プログラム管理者などの公共部門の仕事
・軍の戦闘員とその支援要員

AIの現状と急速に発展していく未来について知りたければ、ぜひ読んでみたい本です。


 

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